《MUMEI》
秩序と誘惑、その狭間
 「はあ!?拾ってこなかったのお!?マジでチョーありえないんですけどぉ。」

 「その喋り方やめてください、ヘルメットさん。耳に触ります。そもそもそんな風に話す人もういないと思いますよ。いつの言葉ですか?石器時代?」

 「るっせぇ゙んだけどぉ。つーかヘルメットじゃねーから。ルメットだから。つーかそっちで呼ぶなってゆってんだけど。」

 「エティコ、アデスカ、もうやめろ!」

 「おめーのハンパなやり方とかマジうぜぇんだけど。」

 アデスカは足の裏全体を使って僕を蹴り飛ばした。

 これが僕の日常だ。僕には人にどうしても言えないことがある。いつも、この煩い二人がついてまわってくるのだ。

 ジャラジャラ音の鳴る飾りを、これでもかとくっつけた真っ黒な服。毒々しい化粧に大量のピアス類。そしてこの口調とこの性格。「誘惑のアデスカ」

 清潔な白で統一されたヒラヒラの上下と、綺麗にカールした金色の髪。首には透き通った石のペンダントを下げている。いかにも天真爛漫といった印象を受けるが、なぜか喋らせると棘がある。「秩序のエティコ」

 物心ついたときには既にこの二人が側にいた。僕のやることなすこと全てに、互いに真逆の意見を口出ししてくるのだ。

 アデスカは、より僕の自我に近い方に。エティコはとにかくモラルを追求する。

 「置いとくとかワケわかんないんだけど。」

 「自信がないことの表れですね。いい歳して素直に交番に届けたら変な顔されるんじゃないかって勝手に被害妄想してるんですよ。そんなことしてるからいつまでも人の出方を窺って……」

 「ああ!!もうわかったよ。今度から拾うか届けるかすればいいんだろ!?」

 するとアデスカが遠慮なく笑った。

 「届けるっておめー自分のサイフの中身分かってんかよ!マヂでウケるんですけど。」

 ちなみに、エティコはいいとして、どうしてアデスカが僕の経済事情を気にかけているのかというと、アデスカはあんな性格でも人間の物によく興味を示す(二人が人間じゃないのかって?結論からいえば確かにそうだ。でも、このことは少し後で話すことにする)。この前は僕のボールペンにヒモをつけ、「アシャンクラーの護符」などと勝手に名前を付けて首から下げていた。
 アデスカは、僕が金欠で目新しいものを買ってこられなくなるのを、ことのほか嫌うのだ。
 だから僕は、常に何か新しい物をアデスカに買い与えるハメになった。

 エティコの方はあまりそんなことはないのだが、なぜかテレビにだけは固執する。特にファッション系の番組が始まると、かじりついて離れようとしない。一日中テレビをつけていられると電気代がかかるので、僕はいつもリモコンを持って会社に行く。エティコは本体のボタンで電源が入ることを知らないのだ!

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