《MUMEI》

「う…」


結子さんに言われ、俊彦は黙ってしまった。


良君は、相変わらず私の腕の中にいた。


良君がぺたぺたと私の胸に触れてきた。


「…? ごめんね。私は出ないんだよ」


私が微笑みながら言うと、結子さんは『違う違う』と言って笑った。


「ただ単に、女の子に触るの好きみたい。特に、蝶子はお気に入りみたいよ。

ちなみに…」


結子さんは、良君をヒョイと持ち上げた。


そして、『はい』と言って、俊彦に手渡す。


俊彦が、慌てて抱くと…


良君は、いきなり大声で泣き始めた。


「男は大嫌いなのよね〜、『おじさん』は特に」


「わかってるなら、渡すなよ」


俊彦は、困りきっていた。

結子さんは、『はいはい、おじさんは嫌ですね〜』と言って、再び良君を抱き上げた。


そして、眠りについた良君を、ベビーベッドに寝かせた。


「雅彦は、大丈夫なんだっけ?」


「ものすごく、眉間にしわが寄るけど、泣かれはしないよ。
『じいさん』達も、同じ」

雅彦は、苦笑しながら眠る良君の頬に触れた。


「…寝てる時は、大丈夫なんだけどなあ」


その顔は、『父親』のものだった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫