《MUMEI》
私生活
「これ、今日の報酬ね。」
葵は封筒に入った50万円を受け取ると、複雑な表情を浮かべた。
「お前の大好きな諭吉君カードだぞ?そんな顔するな。」
仁田が再び冷蔵庫をあさりながら言うと、葵は眉をひそめて仁田を見た。
「聞こえの悪い言い方しないでください。」
「何が不満だ?」
間髪入れずに仁田が訊く。
「いえ…。ちょっと感傷に浸っただけです。」
葵がボソッと呟くと、仁田が葵に詰め寄った。
思わず後ずさりして、壁に追いやられると、仁田が葵の顔を覗き込んだ。
「お前、この仕事に誇りなんか持つなよ?」
「持てません。」
「忘れるな。俺もお前も人殺しだ。」
葵が仁田の目を睨むと、仁田は気まずそうに玄関に向かった。
「帰るんですか?」
力が抜けてその場に座り込んだまま葵が訊く。
「酒買って来る。お前のカブの鍵貸せ。」
靴を履きながら仁田が言うと、葵が鍵を投げた。
それを受け取ると、仁田は部屋から出て行った。
カブとは葵が乗っている原付バイクの名前だ。
部屋に一人になった葵。
急に寂しくなって、膝を抱えてうずくまった。

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