《MUMEI》

「ちょ、ちょっと! やめてよっ!」


「何で?イチャイチャの為に来てるんだよ?」


「だからって、人前で抱きつかないで!」


すると…


俊彦の腕の中で暴れる私に、和馬が『その位いいよ』と言って…


琴子の頬にチュッとキスをした。


「俺達も、イチャイチャするから、なぁ?」


和馬の言葉に、琴子は頷いた。


「俺達も?」


「…当たり前でしょ」


麗子さんは孝太に抱きついた。


「そ…でもっ…やっぱり…」


「蝶子。ここは、皆に合わせてイチャイチャしようよ、ね?」


(『ね?』…って…)


俊彦の顔が、唇が徐々に近付く。


「そ、それより、泳ごう!」


私は、俊彦の口を手で押さえた。


いくらここにいる人達に許されても、私は昼間に人前で…そういう、『イチャイチャする』のは、やっぱり苦手だった。


「ね?…お願い」


私の必死の願いが通じたのか、俊彦は私から離れた。

「…いいよ」


(良かった)


ホッとする私に向かって、俊彦は、ニヤリと笑いながら言った。


『泳ぎながらだって、イチャイチャできるから』


ーと。


そして、俊彦と私はプールで延々と『鬼ごっこ』をした。

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