《MUMEI》

俊彦はいつも鬼で、逃げるのは私。


俊彦が、十秒数える間に私は俊彦から離れる。


「八、九、…十っ!」


嬉しそうに泳ぎ出す俊彦。

逃げる私。


去年の商店街の旅行での経験から、私は、頭ではわかっていた。


普通のビキニの私ですら、浴衣の俊彦から逃げられなかったのに、こんな、ほどけそうなヒモのビキニで、水着の俊彦に逃げきれるはずはないーと。


わかっていても、私は必死で逃げてしまう。


俊彦は、それがたまらなく嬉しいらしい。


「…捕まえた」


そう言う俊彦の声は、ものすごく…甘い。


俊彦は、『一回戦』は、私の額に一回


『二回戦』は私の頬に二回キスをした。


今は、三回戦だった。


(疲れた…)


私は既に抵抗する気力も無くなって、俊彦の腕の中でぐったりしていた。


「いいの? 油断してて、唇、奪っちゃうよ?

まだ、昼間で、ここ、外で、皆、いるのに…」


「はなっ…して…」


力は入らないが、私は何とか俊彦に訴えた。


「いいよ」





俊彦が手を離した瞬間ー


「…どうしたの?」


俊彦は、ニヤリと笑いながら私を見た。


私は、俊彦にしがみついたままだった

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