《MUMEI》

「ごめん、安西……」

声を押し殺してたからあまり泣いた気がしないけれど、気持ちはすっとした。

「……先輩の気が済んだなら何よりですよ。」

ティッシュを渡されたので、鼻をかむ。

「有難うね。……っ俺、情けないね……?」

駄目な先輩だ。

「男が泣いちゃいけないなんて誰が決めたんですかね?母さんによく、

〈男の子〉なんだからそれ位我慢しなさい

って言われていて、いざ両親が離婚してしまうって決まった時、泣いて親に罪悪感を植え付けてやろうと思ったんです……なのに泣けなかったんです。自然に感情を押し殺す事を覚えてました、なんだか無性に叫びたくて、怒りたくて、暴れたくても最後には俺、笑ってました。

涙は一つの気持ちの表現で……、だから、恥ずかしい事じゃないですよ。羨ましいくらいです。」

安西はいつもの笑い方をする。ただ、いつもより少しだけ寂しそうだ。

「それに、先輩の涙綺麗ですよ。」

「……見てないくせに!」

安西の服をまだ掴んでいる事が恥ずかしく思えて離した。

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