《MUMEI》

(恥ずかしいなぁ、もう…)

俊彦が、しつこく『一口だけ!』と何度も言うので、私は渋々俊彦のスプーンを持とうとしたのだが…


俊彦は、それを拒んだ。


首を傾げる私に、俊彦は、『間接チューがいい』と小声で言い、再び口を開けた状態で待っている。


(べ、別に、このくらい…いいわよね?)


実際のキスもしているし。

私は、それでも少し緊張しながら俊彦の口へマヨネーズたっぷりのカレーが乗ったスプーンを近付けた。


俊彦がパクリと食い付く。

私は、スプーンを俊彦の口から出した。


(これで、いいわよね)


安心した私の手を、俊彦が掴んだ。


「な、…何?」


「まだ、付いてる」


そう言って、俊彦は舌を出して、私のスプーンを、舐め回した。


「はい、いいよ。ごめんね。…残り、食べて」


(こ、これで?)


私は俊彦に舐められたスプーンをまじまじと見つめた。


他の四人からも、視線を感じた私は、立ち上がり、スプーンを洗いに行こうとしたのだが、俊彦がそれを許さなかった。


カレーはまだ半分以上残っている。


残す事のできない性格の私は、結局そのスプーンでカレーを食べ終えた。

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