《MUMEI》

国雄が一番『国雄』に戻り辛いのは外を歩くことだった。白い目で嫌煙する人間や好色な好奇な視線、それらを一身に浴びせられるからだ。

本当の自分では無く誰しも『国雄』を通して恒明を覗き見る。
それが堪らなく嫌だった。

偽物の自身を被り、演じ続ける自分に嫌気がさし恒明に当たることもあった。

そうすると
決まって彼は

「いつかお前にどうしようもないことが起きたら、その時はまた助けてやるよ。……それまで・な?」

と、言いくるめるのだ。


恒明の言葉は信憑性を欠いていて国雄には言い訳にしか聞こえなかった。

そんな燻った気持ちを鎮めるために始めたのが『火遊び』だったのである。

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