《MUMEI》

心地よい風が吹き電線を揺らす。


張り巡らされた人工のクモの巣から雫が落ちて、
上着に染み込んでゆく。


その雫の1つ1つが体内に浸透していく気分だった。


あれから、

いったいどれくらいのモノが頭の上を掠めていったのであろう。


目の前に現実そのものの世界が広がる。


踏み切りを渡り、母の待つ会場へと向かう。

オレは1人ではない。

意識しなければ忘れてしまいそうな日々が、この先も待っている。

オレは1人ではない。


人工的なクモの巣に、

太陽が絡まっている様に見えた。


普段と変わらぬ昼下がりが、


訪れそうな気配がした。


それは、ほんの一瞬の出来事だった。

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