《MUMEI》

「葵、ビール飲む?」
部屋に戻ってきた仁田が、500mlのビールの二本入ったコンビニの袋を、葵の目の前で揺らす。
「私牛乳でいいです。」
うずくまったまま葵が返事すると、仁田はつまらなそうにビールを開けた。
「おい、早く牛乳出せよ。乾杯出来ない。」
自分勝手な仁田に苛立った葵は、コンビニの袋に手を突っ込み、おもむろにビールを取り出した。
「アルコールくらい余裕です。」
自己暗示のように呟くと、蓋を開け、仁田に突き出した。
「おい、無理するなよ?」
「乾杯!」
少し戸惑った様子の仁田に無理やり乾杯すると、葵はビールを一気に飲んだ。
「葵?大丈夫か?」
空になったビールの缶を持ったまま、葵はその場に座り込んだ。
「お前、一気に飲む奴があるか。」
葵の手から、空になった缶を取る仁田。
その腕をいきなり葵が掴む。
「ぉおい仁田ぁ!」
いつもの目と違い、葵の目が座っている。
「ど、どうした?」
仁田の方が気圧されている。
「言ってみたかっただけー。」
そう言って一人で笑っている葵。
「やっぱりお前に酒を進めるんじゃなかったよ。」
困った顔をして葵を軽々と抱えると、ベッドに寝せて毛布を掛けてあげた。
「風邪ひくなよ。」
「ありがとう。」
寝言のように呟く葵を見て、安心したように微笑むと、仁田は部屋を出た。

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