《MUMEI》

オレの知っている限り、父は真面目で温厚な人柄であった。


我々を取り巻く痛みの世界では、

人に弱さを見せたり、

気持ちを打ち明ける事をタブーとされ、

問題は自分自身で解決する事がポリシーであり暗黙のルールとなっている。


いつかその激情が爆発し、

周りの者を被爆させ、

悲しみや怒号を詰め合わせた絶望が、

心の距離が近い者達に飛び火していくまで終わらない。


父は紛れもなく、


痛みの世界の住人であった。


あの日、

母を失ってから怒りという感情が完全に燃え上がる事が出来なかったのは、


間違いなくオレにとっての父は1人だけで、

記憶の中の父は不器用な優しさと愛情を持った人間だったからだ。

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