《MUMEI》

この日の午後、

取調室で見たのは1枚の書類。

母が最期の日に着ていた衣類等の詳細が記載されていた。


言葉は無機質に、

見覚えのある母の姿を連想させた。


見覚えのある姿。


あの日着ていた物の全てに母の姿が追憶される。


味気ない部屋が土色を増し、

書類に記された言葉は淡々と状況を綴っていた。

笑顔の母。

赤く染まる追憶の姿。

ブラインドからもれる一筋の光は、永遠に遠く感じた。


この建物の中に、父は拘留している。


同じ建物の中に、父は存在している。


やりきれない気持ちを残し、オレは外で待つ巡査の元に向かった。


オレの心が歪む時程、

空はいつも青く研ぎ澄まされていた。


人生という言葉の前半で大切なものの殆どを失い、

残された後半、

一体何を失うのか?


全てが過ぎし日々になる時も、


空は青く染まっていて欲しい。


そう願う。

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