《MUMEI》

家路に向かう途中、
懐かしい風景が視界をよぎる。

フロントガラスから覗くその風景は、

穏やかな午後を象徴している様に見えた。


いや、今まで見たものの何よりも色褪せずに、

時代を超越した温もりを感じた。


風化し、劣化が進んだ白い塗装が感傷を煽る。

その光景に心の琴線が震え、

数秒で通り過ぎてゆく景色に、オレはみとれていた。


幼い頃の古呆けた画像が鮮度を増す。


母と手を繋いで歩いた坂道。


街路樹に隠れ、

ひっそりと佇む小さな公園。


今はあまり見ない、おおざっぱな形をした遊具。


走り回った砂利の感触。


穏やかな日曜日。


永遠の青空に、永遠の笑顔。



母と何度も足を伸ばした白い建物。


日曜日になると、

シンデレラやピーターパンの人形劇を見に行くのが楽しみだった。

太陽の光が、街路樹の緑を抜ける。


この道が好きだった。


幼いオレは、

母の手を決して離さなかった。


出来れば、


別れの瞬間


母の手を強く握っていたかった。

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