《MUMEI》

俊彦は、何故か無言で私の顔を見つめていた。


「? 何?」


「いや、別に。…そろそろ、寝ようか」


俊彦の提案に、和馬が『だな』と同意した。


私と琴子は同時に赤くなった。


「もう少し、飲みたいな」

「部屋で飲めばいい。どうせ、飲むのは俺達だけだから」


孝太は、台所から新しい日本酒の入った一升瓶と、つまみを持ってきて言った。

「仕方ないわね」


最後まで座っていた麗子さんは、渋々立ち上がった。

そして私達は、二階に上がり、明日の朝の事を確認して、『おやすみ』と言ってそれぞれの寝室に入った。


部屋は、一番早く出発する私と俊彦が階段の近くで、和馬と琴子は、元々和馬が家族と来た時に使っていた一番奥だった。


そして、孝太と麗子さんの部屋は、丁度その中間に位置していた。


寝室は全部で五部屋あり、隣合わせにならないのが、私にとっては嬉しかったのだが…


「どうしたの?蝶子?」


ダブルベッドに座り、私を待っている俊彦に、私は近付けないでいた。


「やっぱり…他に人がいると緊張する」


「和馬の家でもしたじゃん」


「だって…」


(それに…)


「蝶子って、嘘が下手だよね」

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