《MUMEI》

「恒光来てませんか?」

そう自分の名前を言う〈国雄〉は嫌に優しかった。




「何の用件だ。」

「迎えに来たんだよ。」

にこやかに同じ顔をした彼は笑いかける。

「もう、帰れない」

逃げることさえも出来るか分からない。


「……いいから。戻ってこい。」

恒光には揺るぎ無い自信が溢れていて、それが多くの人間を打ち負かしてきた。

力強く握ってくる手を振り払うことが出来ずに引っ張られて行く。

そんな彼が羨ましく、憎らしいのだ。

「恒光は……」

自分が放火魔だと知っているのかと聞けなかった。

「お前が恒光で在る限り保証する。」

恒光の手はまるで全ての物を払い退けるようだった。

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