《MUMEI》

「え?」


ギクリとする私に、俊彦が歩みよる。


「…真っ赤」


「これは、ちょっと酔ってるから…」


「カクテル一杯じゃ酔わないだろ?」


俊彦は、私の顔を覗き込んで、ニヤニヤ笑っていた。

そして、『もしかして、蝶子、風呂覗いてた?』と訊いてきた。


「そんな事するわけないでしょ!」


「ふ〜ん、…本当みたいだね。

じゃあ、何で疲れてるの見て、いつもみたいに心配してくれなかったのかな?

あ!わかった」


俊彦は、私をビシッと指差し、『盗み聞きだろ』と言った。


「!」


「当たりだ」


何も言えない私の頬に、俊彦がそっと触れてきた。


「そんなに、俺の側にいたかったの?」


耳元で囁かれ、思わず体がピクリと反応する


「違うの!麗子さんが…」

「ふぅん?」


「そ、それより!いつも、あんな事、話してるの?」

私は、もうバレたからと開き直り、気になっていた事を質問した。


「あぁ、蝶子がどんなに可愛いかって? 大丈夫。…もったいないから、ちょっとしか言ってないし、蝶子が嫌なら、…言わないよ」


そして俊彦は、いつものように、長いキスをしてきた。


「…おいで」

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