《MUMEI》

「負けたか…」


「前半は良かったけどな。…俺たち体力ないな。」


帰る準備をしていた。
これからミーティングだ。


「わかってんじゃん。」


「クロさん…」


「言っとくけど、前半いい勝負できたのは僕のおかげだからな。」


「え!?」


「当たり前じゃん!!下手くそなお前たちがあんな上手くいくわけないだろ!!」


(はっきり言う人だな…)


「だからさ。」


「?」


「上手くなれよ。僕だけの力じゃ勝てないんだよ。」


「…」


「ホントはさ!!僕の指示でどれだけやれるかってのを知りたかったって部分もあるんだよね。」


「…」


「コーチとかやったことないし。んで、試してみたら、割といけた。後は…、お前たち次第だよ。」


言い返したくなるようなクロの言葉だったが、選手たちは皆聞き入り、そしてこう思った。


『そうかもしれない。』


「…明日は何時からすか?」


「1時から。遅れるなよ。」


「はい!!」


そして聖龍高校を後にした。


「翔太?」


「なんすか?」


「あいつらが羨ましいわ。」


「…自分もです。」


今気付いた。
諦めない限りチャンスがあり続ける社会人リーグ。


3年間という数少ないチャンスの中で行う高校ハンドボール。


あの頃は、危機感とかホントに勝ちたいって気持ちがあったんだな。


社会人リーグだから投げやりってわけじゃないけど、あの時の気持ちよりは、やっぱり弱い。


僕が『前よりもハンドボールやる気ない』って思ってたのは、あの時の気持ちがないからなんだな。


必死でハンドボールをやれるお前たちが…


羨ましい。

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