《MUMEI》

私には、走って追いかける体力が無かった。


(それに…)


未だに母親と私を間違えている女の子を放っておく事はできなかった。


その時、不意に女の子が顔を上げた。


どうやら、母親ではないとわかったらしい。


(…ん?)


私は、顔を上げた女の子の顔をまじまじと見つめた。

女の子は、一重で細い目をしていた。


(まさか、…ね)


私は女の子と同じ目線になるために、その場にしゃがみ、名前を訊いた。


女の子は可愛らしい声で


「白石美穂子(みほこ)です」


と名乗った。


「…白石?」


女の子ー美穂子ちゃんは、『はい!』と元気よく答えた。


(圭介さん、子供いたっけ…?)


奥さんは紹介してもらったが、子供は紹介されていなかったので、私は戸惑った。


「お姉さん?」


「あ、ううん。何でもないの。ママ、どこにいるか、わかる?」


私の質問に、美穂子ちゃんは首を横に振った。


「パパは?」


「来てない」


「そう…」


(二人で来たのかな?)


私は、とりあえず美穂子ちゃんと二人で迷子センターに向かって歩き出した。


「あの〜、すみません…」

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