《MUMEI》

…いよいよ 明日 風花が 旅立つ。


桜花は 櫻の木に 寄りかかる 冬風の腕の中にいる。


「冬風は 暖かいのぉ。」
桜花は、そう言って、無邪気に笑った。


「寒い、冬の風の精霊なのに?」
冬風も 笑った。


「冬風…」
不意に 桜花が 呟く。

「…? 桜花?」


「そろそろ 限界の ようじゃ…風花を 見送りたかったが…もう姿を 保てぬ…」


冬風の腕の中で…桜花の姿は 見る見る 櫻の花びらに 変わっていく。


「桜花、まだ逝くな!」
冬風の 刹那な願いも 虚しく

風が 腕の中から、櫻の花びらを さらって 天空へと 舞い上げる


舞い上がりし 花びらは 櫻色の 華雪になりて桜花の櫻に 静かに 降り積もる。


「桜花ーー。」
冬風の 涙も 雪になる。


桜花の櫻の木は 花が咲いてるように 見えた。


気付けば いつ起きたのか、風花が 櫻の木の前におる。


「美しいのぉ、冬風、まるで 母上の ようじゃ。」


「そうだな、風花。」

その夜 華雪は いつまでも 降り続けた。

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