《MUMEI》

「じゃあ、そろそろ寝るから…」


《あ、蝶子》


「…何?」


《愛してるよ》


俊彦は甘く囁いた。


「な、何?急に」


ドキドキする私に、俊彦は『蝶子も言ってよ』と言ってきた。


「恥ずかしい…」


《昼間、蝶子のいない商店街に一人で帰ってきて、一人で家で過ごして…今も、一人で寂しいんだ》


(雅彦、もういないもんね)

『シューズクラブ』のあるあの大きな建物に一人きりは、俊彦でなくても寂しいだろうと思った。


《だから…お願い。じゃないと、眠れない》


(それは、大げさかも…)


そう思いつつも、私は、俊彦の為に、小声で言った。

『愛してるよ、俊彦』


ーと。


《ありがとう。おやすみ。明日、来てね、絶対》


「うん、おやすみ」


私は俊彦と約束して、電話を切った。


そのすぐ後に、再び電話が鳴った。


(どうしよう…)


画面表示を見て、私は戸惑った。


電話は鳴り続ける。


迷った挙げ句、私は電話に出る事にした。


ピッ


「もしもし」


私はできるだけ小声で言った。


電話先にいるのが『誰』でも、耳はいいはずだと思ったから。

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