《MUMEI》 「うん」 迷う時間なんて不要とばかりに、彼は即答した。 「俺もそうだし、きっと向こうもちゃんと愛してくれてると思うよ」 自分の柔らかな感情は水か砂みたいに手の平から零れて、ましてや他人の感情なんてはじめてから存在しないものみたいに目に少しも見えないのに、それに形を与えて愛だと豪語できる彼は、何より強い引力を持っていたのかもしれない。 女だとか男だとか、生まれたときからの足枷よりももっと強力な、近藤銀二というただ一人の人間として。 うらやましいわ そう口にするのは負けた気がして、胸の内に秘めておいた。 「どこがよかったの?」 「うーん…不器用だけど、真面目で優しいとこかな」 まるで夫を紹介する新妻みたいに、ピンク色のほっぺで恥ずかしそうに言われたら、もう次いで言う言葉なんて出てこなかった。 まったく、よっぽど好きなのね 揺れるミルクティー、柔らかな冬の日差しと美味しいショコラ、他人の、しかも元彼の恋人の惚気なんて、まともな神経じゃ聞いてられない。だけど、茶髪の彼の砂糖菓子みたいに甘い感情は幸せそうで、私の反応に安心したことも明らかで、嬉しそうにしゃべる彼を見ていたらどうでもよくなった。 愛してるのね ぽつんと呟いた私の言葉に彼はにっこり笑って頷いた。 前へ |次へ |
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