《MUMEI》

もし
君を見付けたら、何て言おうかな。

足が急いてしまう。

君を突っぱねた口で

“やあ?”

……馴れ馴れしいか。



今時、薄荷飴なんて選んじゃうのは君ならではのズレたセンスだ。
まだ居る、自信がある。


「二郎……!」

俺を振り向いて気付いたけれど、無視している。



……正直、傷付いた。

治りかけた足を、無理矢理走らせる。
まだ何か重りが付いているみたいだ。

「……痛…………っ」

壁にもたれ掛かる。
揺らした肩や足が痛んだ。

当たり前だ。
怪我をして完治しないうちに走ったのだから。

俺が拒んだんだ、それをもう一度掴もうなんておこがましい。

二郎の背中が小さくなっていた。
痛くて泣きたいのか、只、悲しいのか。


離したらら戻ってこないことは分かっていた。

でも淡い期待を抱いてしまう。




看護士が気付いたようで駆け寄ってくる。

…………よりも早く。
風が舞った。


幻覚を見た。

俺の前でしゃがんで、座り込んだ俺の指を握ってくれている……気がした。

相当、寂しいみたいだ。

「二郎……すきだよ。」

すきだよ。
俺は嘘ばかりだから、せめて幻覚の前になら……、素直になりたかった。

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