《MUMEI》 「…ねえ、」 棗が、口を開いた。 目を開ける。 「―…『二階堂君』って呼びにくいからさ、」 そこまで言うと、棗は少し躊躇う素振りを見せた。 「…なに」 「―…下の名前で、呼んでもいいかな!?」 少し大きな声で言う棗。 なぜか緊張してるみたいだった。 「…勝手にすれば」 「え、いいの!?」 …別に、本当にどうでも良かった。 名前は名前だし。 また、空を見上げる。 青い。 棗は嬉しそうに唇を噛んで俯くと、 「…えみくん」 と、呟いた。 俺が視線だけを向けると、顔を上げた棗と目が合った。 棗は、 「…ありがと、えみくん」 俺にそう言うと、 えへへ、と照れたように笑った。 俺は、どんな顔をすればいいか分からずに、 また、空を仰いで目を閉じた。 俺の名を呼ぶ棗の声が、 やけに耳に残った。 前へ |次へ |
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