《MUMEI》

「それより、本題に入りましょう」


祖母は、私の質問には答えなかった。


「でも…」


「本人がいいみたいだから、ここは、話を聞こう」


父は私の肩に手を置いた。

そして、小声で『遅くなると皆が心配するから』と私に言った。


皆と言われて、私の頭に一番先に浮かんだのは、俊彦の顔だった。


今朝、俊彦と咲子さんに私はメールを送ったのだが、咲子さんは『わかった』と返信してくれたが、俊彦は、電話をすぐに鳴らした。

私は丁度その時、父と話し合いを終え、遅めの朝食を食べていたので、電話に出なかった。


すると、俊彦は、私が教えておいた実家の電話を鳴らした。


電話には華江さんが出て、興奮気味の俊彦に、冷静に対応してくれたので、一応俊彦は今日の事を納得してくれたが、…


『ちゃんと帰って来てね!できるだけ早く』と言われていたのだ。


「俊彦君の事なんだけど…」


「はい」


俊彦の事を考えていた事もあり、私は祖母の言葉にドキッとした。


(…また、他の話は後でしよう)


私はとりあえず祖母の次の言葉に耳を傾けた。


祖母は、一口紅茶を飲み、覚悟を決めたように、口を開いた。

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