《MUMEI》

「ありがとう!」


私の言葉に祖母は笑顔を浮かべた。


「蝶子ちゃんはまだ俊彦君と結婚するとは決まってませんから、会うのは、俺と華江が決めた期限を過ぎてからにしてください

それでもいいですか?」


父が確認すると、祖母は少し残念そうな顔をして、頷いた。


(そうか…)


父は『もう山田家の許しは必要無い』と言った。


だから、最終的な判断を下すのは、あくまで父と華江さんであることを強調したいのだ。


そして、その期限を過ぎた後なら、仕方ないから会わせてやるという気持ちなのだろう。


「蝶子ちゃんは優し過ぎるから、俺がこのくらい言わないとね」


父は私に小声で囁いた。


「じゃあ、またね」


「はい」


タクシーに乗り込む祖母を、私と無言の父は見送った。


「早く終わって良かったな」


タクシーが見えなくなると、父は笑顔になった。


(いろいろ気にはなるけど…)


祖母が俊彦を認めてくれた事と、祖父母との縁が切れなかった事は素直に嬉しかった。


私は頷いて、父と一緒に、華江さんと友君が待つデパートへと移動した。


(あ、そうだ)


私は、俊彦に連絡する為に、携帯を取り出した。

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