《MUMEI》
第三話:クールダウン
 勝弘の予想は見事に当たっていた。
 今日のクールダウンは二人で外周を廻っていたのである。

「珍しいな。昴さんが外周に行くなんて」
「たまにはな。美砂とマネージャーに見つかるとうるさいからな」

 主にマネージャーだと新は思った。
 ベタな恋愛ドラマでもなかろうが、キャプテンとマネージャーの関係は微妙である。

「昴さん、マネージャーと付き合わないんですか?
 告白されたんでしょ?」

 新は軽い感じで尋ねてみた。
 これも昔からの付き合いだからこそ出来るのである。

「まあな。嫌いじゃないから付き合っても良いんだと思う。
 だが、そんな軽い気持ちは俺には持てないわけ。分かるか?」
「一応。俺がそうだし」

 昴は笑った。妹を大切に思ってくれていることは確かだと分かっていたが。

「それはなによりだ。別に誰がどんな恋愛しようが勝手だと思うが、
 俺は最初から相手を傷付ける恋愛はしたくない。
 まだ十八だから言ってられることかも知れないが」

 昴の顔がやけに綺麗だと思ったのは、新にとってこれが初めてだった。
 しかし、腐れ縁だからこそ言ってやる。

「・・・・昴ちゃんはカッコつけだ」


 外周から戻った後、カンカンに怒った美砂がいた。

「昴! 新! どれだけ探させたら気が済むのよ!」
「女子走り幅跳び二位おめでとう!」
「さすが美砂だ!」

 二人は拍手喝采でその場を見事に乗り越えようと試みたが、
 それが通じる相手ではまずなかった。

「どうもありがとう。
 だけど、明日にリレーの予選を控えているアンカーをパシリに使う陸部の精神も考えものよね?
 その元凶達の行動を予測して動かなくちゃいけない私の労力も考えてほしいわよね?」

 目が完璧に怒りの文字に変わっている。
 しかし、兄と恋人のタッグは折り紙つきだ。

「美砂ちゃん、機嫌直してくれよ。
 新ちゃんからのお願いだからさ」
「そうだぞ美砂。恋人は悲しませないためにいるもんだ。
 俺が悪かったから新ちゃんは許してやってくれよ」

 卑怯者とはこういうことなんだろうと美砂は思う。
 昔から心配かけた後は必ずこのやり取りが繰り広げられるのだ。

「分かったわよ! だけど今年の誕生日プレゼントは奮発してもらうからね!」
「グッジョブ! 新!」
「昴さん、ちゃんと妹に倹約教えてやってくれよ」

 このコントみたいなやり取りを止めに勝弘はやってくる。

「三人とも、先生が呼んでるから早く来い。急がねぇとこっちまで怒られる」
「そりゃまずい。走れ!」

 四人は急いで駆け出した。
 この平凡な時がずっと続くと、まだ誰も疑っていなかった。

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