《MUMEI》
第四話:ありがとう
「昴、新、ちゃんとダウンにはいったのか?」
「行きました」

 顧問の前に並べられている四人は、まさに陸上部のエース達だった。
 まだ若き顧問の松橋は、あと二日間多忙であるだろう生徒の調子を確かめておきたかったようだ。
 全国大会も考えなければならない四人に、こんなところで怪我をされては困る。

「そうか。ならば結構だが、昴、お前の調子は少々気になるな。
 二次予選にしては飛ばしすぎじゃないのか?」

 二次予選でいきなり自己ベストを叩き出した昴は、
 明らかにいつもと違った気がした。

「先生、心配いりませんよ。
 何だかすごく走れるんでそのまま行っただけですから。
 それと新にまだ負けるわけにはいきませんしね」

 どうやら今シーズンは本当に絶好調のようだ。それを聞いて松橋は安心した。

「だったら良い。新も故障の心配はないか?」
「大丈夫ですよ。全国までにピークを持っていく予定ですし」

 去年、新はあと一歩のところで全国を逃した。
 自分以外の三人の幼なじみが遠征に行くことがすごく悲しかった。
 だからこそ、新は去年の倍の練習量を熟してきた。もう美砂を泣かせないためにも。

「今年は行けるな。勝弘、美砂、お前達も調子は上がって来てるんだ。
 このままペースを落とすなよ」
「はい!」

 その日の試合は終わっていった。


「はあ、終わった。明日は千五だぁ!」

 気合いの入った新の声は夕焼けに馴染んでいく。

「くたばるなよ、新。
 お前は千五になると昴ちゃんとの差が開いていく」
「そうそう。まあ、昴は千五の方が専門だけどね」

 勝弘と美砂は気合いを入れる新に見事なちゃちゃを入れてやる。

「そういうなよ。昴ちゃんは八百じゃ手を抜いてるみたいじゃないか」
「抜いてるかもよ?」
「マジか!?」

 冗談だからこそ叩き合える軽口。
 しかし、八百じゃ走り足りない感じはあるのだろう。
 駅伝でも花の一区を断トツで走り抜いて来るのだから。

「まあ、昴には悪いけど、明日は新を応援してあげるね!」

 美砂の気持ちがすごくありがたいと思った。この恋人は誰よりも強い味方だ。

「ありがとう」

 新は素直にそう答えた。

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