《MUMEI》

お風呂から出た私は、スッピンを見られるのが恥ずかしくて、顔を隠しながら、リビングへ行った。




『こっちおいで。』




ソファに、もたれかかってる吉沢さんが優しく手招きする…。




言われた通り隣に座ると、私の頭をポンっと自分の肩に乗せた…。




何をするでもなく、
何を話すわけでもなく、
ただ、じっと二人で座っていた…。




“吉沢さんは何を考えているんだろう…?”




フッと吉沢さんの方を見る…。




目が合った…。




どちらからともなくキス…




5度目のキス…




こんなの数えてるなんて…やっぱり私、変かな…。




『咲良。愛してるよ。』




耳元で、そっと囁かれ服に手がかかる…。




ドキドキしながら、吉沢さんに体をあずけた…。




……………。




……………。




“やっぱり怖い!!”




『…待って!!』




気が付くと私は、吉沢さんを突き飛ばしていた…。




“どうしよう……。”




『……やっぱり…』




意外にもすぐに口を開いたのは吉沢さんだった…。




『…やっぱり気になってんだろ?………嫁のこと。
平気とか言って全然平気じゃねぇじゃん!
“不倫”ってこと一番気にしてんの咲良じゃん!
…何なんだよ。』




『……いやっ……違っ……違うの!』




『…違うって何が違うんだよ。』




『……だ……だから……その…えっと……。』




『もういいよ!!
…悪い。…俺、頭冷やすわ。…今日は帰る……。』




『…ち……違うの……本当に……ごめんなさい…。』




吉沢さんは、スウェットのまま荷物を持って帰って行った……。




“うっ……うっ……。”




私は、泣き崩れた。




確かに、奥さんに引け目がなかったといえば、嘘になる。




でも…




私は、それ以上に浮かれていた自分に気付いてイヤになったの……。




そして、怖くなった。




嫌われることが…。




全てを吉沢さんに話す前に、一線を越えてしまったら……。




“絶対に嫌われる!”




そう思った…。




“あなたが初めての彼氏です。ファーストキスもあなたでした。”




って早く素直に言えば、良かった。




そうしてれば、こんな誤解なかったのに……。




“不倫!!”




その言葉が胸に響く…。




もうやだ………。




吉沢さんが結婚していなかったら……。




私に“恋愛経験”があったなら……。




なんて無意味な後悔で今日は眠れなかった…。




キッチンには作りすぎたカレー…。




ソファには、吉沢さんが使ったバスタオル…。




あんなに幸せだったのに…。




些細なキッカケで、呆気なく崩れてしまった私達の関係はこのまま終わってしまうのだろうか…。

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