《MUMEI》

レンタカーを借り実家に向かったのは、あの日から3週間くらい後の事。


オレは部屋から持ち出した古いCDをカーステレオに差し込み、

この日決心した思いと共に走り慣れた道を急いだ。


実家に向かう目的は2つ。


荷物の移動と母への最期になるであろう弔いだった。


餞と言ってもいいかもしれない。


久しぶりの我が家。


輝きは遠い日の過去。


物置から軍手と新聞紙を持ち出す。

懐かしい匂いが立ち込める。

合鍵で玄関を開けると、兄の姿がそこにあった。


春から施設に引っ越す予定の為、荷物を整理しているのだと言う。


ところ狭しと積み上げられた家具や小物。


兄にとって、


この家の殆どの物が魂の宿る思い出であり、

捨ててはならない存在意義そのものの様であった。


オレは祖父母の部屋から年代物の白黒写真を見つけた。


若かかりし日々の、祖父母が写真の向こうで笑っていた。


幼少の父と叔父が、

あどけない顔でこちらを見ている。


悲しみに打ち抜かれた

孫であり、

息子であり、

甥であるオレを。


何十年も若い姿の貴方達が、

時を越え、


悲劇を目撃する。

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