《MUMEI》 衣装ラックに吊るされた母のブラウスやTシャツは、 所々に赤い結晶が付着していた。 オレはそれらの全てを手にとり、 畳の上に広げたシーツに重ねていく。 沸き上がる感情を抑えながら。 ただ、 この瞬間だけを考えながら。 目の前に衣類で出来た小さな山が聳える。 あまりにも静かな日常が、 ふしくれだつ違和感と共に溶けだす。 これで止める訳にはいかない。 決意がそうさせる。 視線をタンスに移し、1つ1つ丁寧に衣類を確認する。 母の面影に手が止まる。 タンスの中は殆ど空になり、 目の前には先程よりも大きさを増した衣類の山が立ちはだかる。 仕事着も普段着も、 若き日のお気に入りも全て、 シーツの上でいま再び、静かに呼吸を始めている様に見えた。 これが、最期だ。 形としての親孝行、 純粋な思いよ届け。 未だ母が存在するかの様な、 懐かしく暖かい幻影が気持ちを前に動かす。 前へ |次へ |
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