《MUMEI》 「アゲハの…、俊彦、君との事なら、悪いけど、私からは話せないの。 …ごめんなさい」 「…え?」 (どういう…事?) 三枝さんの言葉に私は驚いた。 「私を呼び止めたのは、その事じゃ、無い…の?」 「えぇと…、関係無いわけじゃないんですけど…」 (どうしよう) 三枝さんに『話してくれてありがとうございます』とお礼を言うつもりだった私は、予想外の展開に戸惑っていた。 「あの〜、とりあえず、荷物、車に入れに行かせてくれないかな?」 亘君が申し訳なさそうに言うので、私と三枝さんは頷いた。 「今日は、一人で遊びに来たの?」 「いえ、父と、…華江さんと、弟と」 「そう」 私の言葉に、三枝さんは少し考えこんでいた。 「荷物入れたよ」 そこへ、車に荷物を入れに行っていた亘君が戻ってきた。 「亘、蝶子ちゃんの父親の顔、わかるわよね?」 「一応…何で?」 (何だろう?) 私と亘君は同時に首を傾げた。 「『蝶子ちゃん借ります』って言っておいて。 あ、あんたは電車で帰りなさい。定期あるでしょう?」 「あるけど、待ってよ!」 「さ、行きましょう」 前へ |次へ |
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