《MUMEI》

「えと……、君は学級委員の人!」

よくこんな慣れない時期に学級委員なんて立候補したものだと感心した。

「氷室 千秋だ。
同じクラスの、ましてや学級委員の名前くらい知っておけ。」

「……ごめん。」

だってあまり人と話さないし。氷室君は学級委員だからまだ顔が固定されていてマシな方だ。

「……で、何これ。」

これとは、氷室君に掛かってある僕が捨てた顎髭のことだろう。

「さ、さあ?」

「お前が逃げたのを見た。どうして毛が落ちてきたのか説明しろ。」

氷室君は威圧的だ。
眼鏡の奥の瞳が苗字の通り氷のように冷ややかだ。

「言え。」

怖い……!







「あの、猫が……


猫が居たんだ。
可愛くてついね、興奮しちゃって。

学校ではしないように我慢してたのに、感情が高ぶると体の一部分から発毛してしまう特殊な体質なんだ。

今日は顎髭だった、その真下に調度氷室君が居たんだ……ごめん。
気持ち悪かったよね。

お願いだから黙っていてくれる?」

氷室君は僕の捨てた毛を掻き捨てると僕の伸びきった前髪を掴み上げ目線を合わせた。

「……面白い。」

口許だけ笑う氷室君は、無表情に見えて僕には恐ろしくて仕方なかった。

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