《MUMEI》
第八話:ペース
「あらたぁ! 飛ばせェ!」
「キャプテン! がんばれ!」
「いけいけ新!」
「おせおせ昴!」

 南城高校陸上部の面々はそれぞれの応援を繰り広げる。

「勝弘、かなりゆったりしたペースだな」
「はい」

 顧問の松橋が勝弘の元にやって来た。
 勝弘もこの後、リレーの決勝を控えていた。
 召集までには多少の時間と水分補給も要する。
 とにかく走り通しの体をどのようにリレーに活かすかが問題だ。

「昴はいつも通り後方から一気に抜かしていくのだろうが、
 新らしくないな、いつもはレースを引っ張るくせに四番手にまで控えてる」

 松橋は新らしくない勝負の仕方に多少の不満があった。

「先生、だけどあいつはやりますよ。
 たぶん今までと同じレースじゃないことに周りが驚いてる。
 あいつは昴さんにまで多少のプレッシャーを与えているみたいです」
「それもあるが、あくまでもいつもと同じメンバーなら通用する走り方だ。
 今日は一人、昴と同じレベルの選手がいるからな」

 松橋は昴の前にいる黒いユニフォームをきた選手に注目していた。

「北高ですね。確か二年生」
「ああ、今まで無名の選手だったから決勝に出て来たことで驚いてる奴もいるが、
 俺は去年から不気味に思ってたよ。
 あいつが八百を走ったら昴が負けるかもしれないってな」

 決勝で顧問がこんなことを言うのは百パーセントなかった。
 だが、昴はそれを感じていた。
 自分が負けるかもしれない相手は、新たじゃなく目の前にいる選手ではないかと・・・・

「あらたぁ! ペースを上げろ!! 呑まれるぞ!!」

 勝弘が叫んだ! ラスト二百メートルにかけるのは危険過ぎる!

『ペースを上げろって・・・・昴ちゃんに負けたくないんだよ』

 新はまだ後方にいるだろう昴を警戒していたが、
 一気に新のペースは乱される。

「残りあと一周」

 鐘の音と共に二人の選手が新を抜かし、先頭にまで踊り出て来たのだ。

『昴ちゃん!』

 昴は自分など見てもいなかった。
 厄介な相手が昴の後方をピッタリ付けていたのである。

『何なんだよ、こいつ!』

 全く出会ったことのないプレッシャーがここにあった。
 昴の後ろを走る選手、原井賢吾、後に『晴天』のもう一人のボーカリストにここで出会ったのである。

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