《MUMEI》
第四話:高校生
「だってよ、快。俺、普段はここでコックやってるからまともに授業受けてないんだよ」
「俺だって任務で抜けてるさ」
 
 しれっとした態度で快は答える。
 ここの高校生達は常に出席日数と戦う羽目にある。
 ただ、快の場合は常に成績優秀なので、特に勉強で困るということはまずない。

「大丈夫だって! 快の実力なら東大だって余裕なんだろ? ここは一つ頼むよ!」
「何をかける?」
 
 ただで動かないのは快ならでは。
 しかし、バスターという性上、それは仕方のないことだと大地は知っているので、

「ちゃっかりしてるよな。こいつでいいか?」

 大地はテーマパークのペアチケットを取り出してきた。

「翡翠との思い出作りに」
「のった!」
 
 長年の付き合いはお互いの利益を追求した関係を作り出せる。
 しかし、さすがに気が付く少年は大地に尋ねた。

「だけど良いのか? お前が使うはずだったんだろ?」
 
 それは間違いなく、大地の彼女と一緒に行こうとしていたものだろう。

「別にいいさ。お前と違っていつまでも告れないわけでもないからな」
「やっぱりこの件はなしってことで・・・・・・」
「嘘だって! 快様ご勘弁を!」

 恋愛ごとで快をからかえば、間違いなく彼を敵に回すことになる。
 快の気が変わらないように、大地はそれ以上の恋愛話はしなかった。


 掃除屋といえども、快は毎日高校に通っている。「箒星学院」。
 自由な校風と部活動が盛んなありふれた高校である。
 快の家に住む掃除屋の高校生達は、大半がこの学院に通っていた。
 もちろん近所にも他の高校もあるわけだが、箒星学院に進学した理由を聞かれれば、
 「親の母校だからなんとなく」と快は答えるだろう。
 しかし、それ以外の理由もちゃんと存在しているのである。
 むしろその理由の方が大半を占めているという噂だが・・・・

「それでは今日はここまで! 解散!」
「ありがとうございました!」
 
 威勢のいいサッカー部の面々が今日も練習を終える。
 そのほとんどがしっかり日焼けをしていて、鍛え抜かれた肉体が眩しく見える。
 特にその中でも目を引くのが快だった。
 他の部員より明らかに細いのだが、監督すら認めてしまうほど しなやかな筋肉を持っていた。
 そのおかげか、もともとが美少年な性か、彼の周りにはいつも女子の黄色い声が耐えることはなかった。
 今日も誰が快にタオルを渡すかでもめている。

「おつかれ」
「おう、おつかれ」

 自分と同じ掃除屋であり、長年の幼馴染である片岡翔は、
 頭から水を浴びていた快にタオルをかけた。
 快より三センチほど高い身長に焦茶の髪色と茶色の瞳を持つなかなかの美少年だ。
 女子の楽しみを毎日奪っているのは間違いなく翔である。
 部屋も快の右隣、何かあればすぐに快の部屋に邪魔しに来る悪友である。

「快、お前に面白いニュースを持ってきたんだ」
「ニュース?」
 
 少し口元が吊り上っているのを見れば、
 間違いなく彼にクリーンヒットしたネタだと快は直感した。

「ああ。今日中松がな、翡翠に告白するんだと」

 快は水道の蛇口を止め、静かに答えた。

「随分物好きだな」

 翔に表情を見せないということはそれなりに、
 いや、かなり内心焦っているということは長年の付き合いで分かる。
 翔は苦笑を押し殺して平然とした態度で言った。

「早く行った方が良いんじゃねぇの?
 付き合うことはないにしろ、デートの一回はあり得るぜ?」

 快は頭を拭きながら静かに歩き始めた。

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