《MUMEI》

「ハナは、嘘がつけんから、いずれお前達が来るのはわかっていた」


湯呑みを置きながら、祖父が祖母を見た。


和室の隅に座っていた祖母は、申し訳無さそうに祖父に頭を下げた。


「…お前達も、嘘が下手だな」


祖父の言葉に私と三枝さんはビクリと反応した。


「一子は、自分が嘘がつけない事を自覚していたから、堂々としていたがな」


「どうせ、私は姉さんとは違うわよ。
だから、私を信用してないから、蝶子ちゃんに何か言ったんでしょう?」


「それでも、ハナはお前を信じていたかった。
しかし、光二が馬鹿をやった事で、儂は、お前を…」

そして、祖父は信じられない言葉を口にした。


『当時のお前の行動を、調べた。
…探偵を雇って』


ーと。


バシャッ!


「三枝!」


その直後の三枝さんの行動に、私は目を丸くし、祖母は悲鳴を上げた。


『最低』と言う三枝さんの右手には、空になったコップがあり、…


「…」


私と三枝さんの目の前にいる無言の祖父の頭からは、三枝さんがかけた麦茶がポタポタと流れていた。


一緒に入っていた氷は、あぐらをかいている祖父の太ももの辺りに散乱していた。

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