《MUMEI》
第八話:嵐の前
「ええ〜〜っ! また快ちゃん邪魔したのか!」
「翡翠も本当に鈍感ね・・・・」

 一悶着あった帰り道。
 白真と紫織は相変わらずな友人達にそれぞれの言葉をつむいだ。

「だろ。サッカー部の連中が一部始終を見てたらしいんだけどよ、
 いつも通り快が邪魔に入って、翡翠を掻っ攫って行ったんだってよ」

 翔はサッカー部のメンバーからのメールを紫織に見せると、

「可哀相に。中松君も報われないわね」

 紫織は改めて中松に同情した。
 少なくとも彼女の情報では、中松が翡翠を好きになって約三年というところだ。
 中学入学の頃からだと思えば、それはかなり重たいものに違いない。
 しかし、それを快がいつもの独占欲で水の泡にもならないほど砕いたのだ。

「だけどよ、いくらなんでも今日当たりはさすがの快も告るんじゃねぇの?」
「それはないな」

 修は完全に否定する。

「あいつに告る度胸も根性もあるが、翡翠にそれを理解する頭脳はない!」
「なるほど!」

 三人はひどく納得するのだった。

「お〜い! みんな〜!」
「翡翠!」

 噂の主はひょっこり現れる。
 そして、少々不機嫌な快も買い物袋片手にゆっくり歩いてきた。
 
「快ちゃ〜〜〜ん!」

 白真は快に抱きついた。
 これも昔から「快ちゃん大好き!」の白真ならではの挨拶。
 同い年に違いないのだが、どうも白真は子供っぽさが抜け切らないのである。
 真剣になるのは紫織の事のみに違いない。

「ちょうどよかった。これ持てポチ」

 抱きついてきた白真を引き剥がすのも面倒だといわんばかりに、
 快は買い物袋を白真の手に引っ掛けた。

「それより、お前また喧嘩しただろう。
 剣道部の連中から写メが届いたぞ」

 そこには無惨な不良達の姿が写っている。しかし、
 
「ん? 普通だろ?」
 
 全く悪びれた様子も見せないのは白真らしい。
 それだけ彼女の紫織が大切だということは、昔からの付き合いで嫌って程知らされてるので何も突っ込まない。

「あんまり面倒起こすなよ。
 うちもこんな奴等に構ってられるほど暇じゃねぇんだからよ」
「さすが跡取り息子だね」

 自分の家の仕事内容と危険な芽を快は父親以上に見逃していない。
 そうでなければ、「TEAM」は危険にさらされることにしかならないのだから・・・

「おかえりなさい!」
「快ちゃん! 早く来い来い!」
「急がないとお酒なくなっちゃうわよ!」
「未成年に酒ばかり勧めるな!」

 やはりいつものこと。 広い庭でのバーベキューは、春・夏にかけて月二回は必ずやっている。
 任務で参加できない者もちらほらいるために二回やるのだ。

「快、頼んでた物買って来てくれたか?」
 
 料理に打ち込んでいる大地は快の方を見ずに尋ねると、

「ああ、とりあえずこんだけ肉があれば少しはもつだろ」
「サンキュー。それより他の奴等は?」

 快だけ帰ってきたことに少しだけ疑問に思うと、

「修と翔はさっき料理長から追加を頼まれて買出しに行った。
 白は酒蔵から追加の酒を取りに行ってる。
 翡翠と紫織は花火がやりたいんだとよ」
「花火って・・・・今、春だろ?」
 
 売ってるかどうかも怪しいものを翡翠はよくやりたがるのだが、

「去年の残りでも使うんじゃねぇの?
 母さんが去年大量に翡翠のために買ってたからよ」

 自分の母親は、いや、「TEAM」の社員達は翡翠にとことん甘い!
 「我慢」という言葉を教えたのは間違いなく快だ。

「それより、あのお祭り馬鹿はどこにいるんだ?」
「お前、一応父親だろ・・・・」
 
 快の言様に大地は突っ込む。
 しかし、快と全く真逆の性格の持ち主にはぴったりの言葉と否定できないのだ。

「後から来るってよ。なんか近いうちにでかい仕事が入りそうだって言ってたからさ」
「厄介なことにならなければいいがな」
「無理じゃねぇ? お前の親父だろ?」

 大地の言葉は嵐の前触れを感じさせた。

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