《MUMEI》
第九話:史上最低温度
 昨日の疲れも何のその、風野翡翠は相変わらず元気である。
 同じクラスの「TEAM」のメンバーは爆睡していても、
 彼女の授業中の態度はいたって真面目だ。
 そんな彼女は、現在職員室に呼び出しを食らっているところである。
 ただし、指導を受けているわけではない。

「失礼しました」

 合気道部の顧問から職員室に呼び出されていた翡翠は、ようやく解放されて教室に戻るところだった。
 翡翠は一年生ながらも、次の練習試合に出られることになったのである。
 しかし、翡翠はバスターの任務を請け負っているため、その都合に合わせて練習試合を組むことにしたのである。
 それだけ翡翠は強いのだから・・・・

「ご飯〜! 試合〜!」

 上機嫌になりながら、翡翠は彼女を待っている友人達の下へ急ぐ。しかし、

「風野翡翠だね。ちょっと顔かしてくれない?」

 突如かけられた声に翡翠はクエッションマークを飛ばしながらもついていくことにした。
 普通なら「リンチだろ! 気づけよ!」と、間違いなく快に突っ込まれそうな形相をした女子達に・・・・


 体育館裏はまさにいじめの絶好のスポットだった。
 着いた途端、翡翠は壁に突き飛ばされる。

「いたいなぁ」

 決して痛いわけがないが、翡翠はとりあえず言う。

「あんた、快君の彼女なんでしょ! それなのに何?
 修君や翔君だけにとどまらず、白真君にまで手を出すの?」
 
 一体どこをどうすれば快の彼女になってしまったんだろうか?
 それに修と白真には立派な彼女がいるので、

「出さないよ。白ちゃんも幼馴染なんだもん」

 彼女に言わせればまさに事実である。
 しかし、快達のファンクラブがそれで納得するわけがない。

「ちゃん付けが馴れ馴れしいんだよ!
 だいたい、高校生にもなって男の子にちょっとちやほやされてるからって調子に乗ってるんじゃないわよ!
 だから女子の友達がいないんじゃないの?」
 
 女子達の高飛車な笑い声がこだます。
 しかし、翡翠はぐっと堪えた。
 自分が本気を出せば、十数人の女子ぐらい簡単に殺してしまえるからだ。
 何より、「我慢」を教えてくれた快に申し訳ない。

「本当のこと言われて言い返せないでやんの! かわいそうな子だね!」
「それ、俺達を敵に回したい発言ととってもいいよな?」

 女子達の背後に、仁王様も青ざめるような眼光をして快は立っていた。
 バスターという人種は気配を消すことは基本中の基本である。
 それは任務のときだけではなく、仲間が学校で呼び出しを喰らっているときでも活用できる。

「快!」
「か、快君!」

 言葉を発したと同時に、快は翡翠の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。そして怒る。

「翡翠、こんなアホどもに関わってるんじゃねぇよ。
 それに傷付く必要もない。お前は俺達の仲間なんだ。
 一人じゃねぇし、女友達がいないわけでもないだろう。
 少なくとも俺のクラスの女子どもがこれを知ったら、お前達生きて帰れねぇぜ?」
 その瞬間、その場は史上最低の温度が到来した。
 クラスメイトの女子達が、タッグを組んでやってきたのである。

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