《MUMEI》
第十話:バスタークラス
「翡翠になんか用?」

 そこにいたのは紫織をはじめとする女子達だった。
 全員が恐ろしい眼光でファンクラブの女子を睨んでいる。

「翡翠を連れていったって聞いたからまさかと思ったけど、こんなバカなことをやっていたなんてね。
 回し蹴りと踵落とし、好みの方をお見舞いしても良いけど?」
 
 キレた紫織は怖い。翡翠が絡むと特に怖い。
 幼馴染の快はそれを良く知っていた。
 さらに、クラスの女子ほとんどが体育会系であり、敵に回すと命はまずないのだ。
 しかし、快はそれを気にも留めず翡翠の肩に手を回すと、

「それじゃあ、行くとするか」

 後のことは露知らず、快は翡翠をその場から連れて行った。


「快、ありがとう」
「どういたしまして」

 少しだけ快は不機嫌だ。
 表情を見せないときは絶対そうだと翡翠は知っている。
 しかし、実際はそれどころではないほど快がキレていることを翡翠は知らないが・・・・

「ねぇ、快。私やっぱり馴れ馴れしいのかな?
 高校生にもなって男の子にちゃん付けなんて。
 それにさっきの子達だって、快達のファンだから私が目障りなんだよね」

 翡翠は俯きながら話すが、快はあっさり言い切った。

「ほっときゃいいんだよ、そんな奴」
「良くないよ。みんな快達が好きだからあんなこと言ったんでしょ?」
 
 涙目になる翡翠に快はポンと頭の上に手を置いた。
 そしてゆっくりと撫でてやる。

「翡翠、お前はお前のままで良いんだよ。変わる必要なんてない」
「だけど・・・・・・」
「翡翠、俺達はあいつらとは違う絆がある。
 それをお前が壊す必要は無い。お前はここにいて良いんだ。
 お前じゃなきゃダメなんだ。分かってるだろう?」

 「バスターは信頼がものをいう」。掃除屋という職業柄、チームメイトとの信頼関係は絶対だ。
 お互いの命を預けることだって少なくはないのだから。

「それによ、お前が「篠原君」とか「色鳥君」なんて言ってるほうがよっぽど気持ち悪い。
 修は間違いなく眩暈起こして倒れるぜ?」

 想像がつくだけに快は絶対やめてもらいたいと思った。
 翡翠の言動が周囲を混乱させることなど幼いころから知っている。
 事実、それが今の「TEAM」だがら・・・・

 「箒星学院 バスタークラス」。
 それは掃除屋に身を置く者達で編成されたクラスだ。
 バスターでない者達の授業妨害にならないために、学院側が配慮したのである。

「おっ? 翡翠、大丈夫だったか?」
「お前の彼女が出張ったんだから平気だろ」

 紫織の空手の腕前を知っている修は、逆に呼び出した女子達を哀れんでいた。
 手加減してはいると思うが・・・・

「翡翠ちゃん! こっちにおいしいお菓子があるからいらっしゃい!」
 
 文科系クラブの女子達が翡翠を呼ぶと、

「食べる〜!」

 子犬のように翡翠は飛んでいった。

『あいつのどこが女子の友達がいないって言うんだ?』

 むしろクラスのマスコット的存在に、「友達皆無」という言葉ほど似合わないものはない。

「ただいま」
「おっ! おつかれさん、紫織」
 
 白真が手を上げる。

「で、いったい何してきたんだ?」

 翔が興味本位で尋ねると、紫織はにっこり笑って、

「知りたいの? 女子のドロドロな関係」
「遠慮しときます」

 翔はその笑みだけで全てを拒絶した。

「しーちゃん! お菓子食べない?」
「いただくわ!」

 バスタークラスは今日も平和だった。

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