《MUMEI》
理由
平山さんはポンポンと俺の背中を叩き、安心しな?心配ないよと言うかの様に優しく微笑んだ。
『惇はこんなんだけど見捨てないでやってくれな?
――簡単にポキっと折れる子だから…きっと潮君の存在なかったら今頃惇、正気じゃいられない状況かも知れないからな…』
『――そんな…、惇が傍に居てくれなかったら俺の方がやばいです…』
さっきまで握っていた、惇の小さめな手を両手で包む様に握りしめ、俺は惇の顔をじっと見つめた。
▽
『 ――聞いてる?惇が上京してきた理由…』
『――は…?タレントになりたかったからじゃないんですか?』
『……いや、惇はそんな子じゃなかったんだ…、本当はこの子はね…、うちと契約するふりしてどっか遠くに逃げるつもりだったんだ』
―――……
『―――意味が…分からないんですが…』
――…だって知り合った頃から惇は何事にも真剣に取り組んでいた…。
ドラマのオーディション必死に受けてはちょい役でも来ると凄く喜んでいた…。
『―――惇は家から…いや、実の兄から逃げる為に上京してきた……この子の兄貴は……、ずっと…
惇を虐待してきたんだ……』
平山さんはそう言い、惇の首筋に指を滑らせた。
『―――傷…』
『――それは扁桃腺取った跡じゃ…』
首の中心を横に真っ直ぐに描く長い傷がなんとなく気になって聞いた時惇はそう言っていた。
それは付き合い始めるだいぶ前に聞いていた事でさほど気にも止めていなかった。
平山さんはそこから指を離し、俺の方を見据えてきた。
『――殺されかけたんだ…惇は…実の兄貴に…』
『――――! 』
『この傷は…、実の兄貴にカッターで切りつけられたんだよ…』
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫