《MUMEI》

「影近様がまさかいらっしゃるとは。」

先刻慌ただしかった事を忘れたような物腰で客人を迎える。

「なんだい、含みが有る物云いだね。」

影近と呼ばれた若者は林太郎と変わらない年齢であろう。
他の年配の客人に“誉様”とも呼ばれている若者は御曹司であることは間違い無かった。
娘達が読む戀愛小説に出てきそうな好青年だ。
一方、好青年の後ろで面の広い白布を首が隠れるように巻き外国で作られていると云う包帯塗れの木乃伊を連想させた目立つ出で立ちの男が居た。

「そうだ、彼にもカフス釦を呉れないか。
僕の友人でね。
おや、こちらも新顔かい。」

誉は実朝の後ろで静かにしていた林太郎に気付いた。

「あ、彼は最近僕の仕事を手伝わせている。」

「氏原でございます。」

林太郎は清々しくなるようなお辞儀をした。

「は、は は、感じの良い子だ。 
君、勿体無いね。随分な近眼かい。」

顔を上げさせようと誉は林太郎の顎に指を這わせる。
林太郎は咄嗟に身を縮め、目を細めた。

実朝は内心冷や汗をかいていた。
僅かに眉をひそめている。

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