《MUMEI》

◆◇◆

「─────夜桜」

「‥‥?」

 うとうととまどろみ始めていた姫君は、徐に目を開けた。

 声の主は、彩貴だ。

 この時分に、彼が訪ねて来るのはおかしい。

 だが、これといって妖気は感じない。

 狐叉、そして黒手毬のものだけである。

「何かあったのか」

「‥‥いや」

 幾分くぐもった声だった。

 何かしら思い詰めている、という感じなのである。

「黒手毬は悪さをするような事はしない」

「黒‥手毬‥?」

「私が名付けた。何を持たない妖だったから」

「その七尾の時と同じだな──」

「‥‥?」

「その時もお前は、同じような事を言っていた」

◆◇◆

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