《MUMEI》

「だ、だめです!」


私が慌てると、その場にいた、友君以外の全員に…


笑われてしまった。


「冗談よ」


(わかってるけど…)


それでも思わず『ダメです』と言ってしまう自分が恥ずかしくて、私は真っ赤になった。


「蝶子ちゃん、カゼ?」


「ち…」


「そうだよ。だから、友君にうつると困るから、蝶子はお兄ちゃんが連れてくね」


「「な…」」


平然と友君に嘘をつく俊彦に、私と父は言葉を失った。


「じゃあ、そういうわけで」


「ちょっ…」


俊彦は私の手を掴み、切符売り場の横の自動改札を通った。


「はい、蝶子」


(いつの間に…)


手を繋いだまま、俊彦は私に切符を渡した。


「蝶子ちゃん、またね〜」

振り返ると、父以外の全員が笑顔で手を振っていた。

父は、華江さんにTシャツを掴まれていた。


「またそっち行くし、いつでも来るんだよ。

一人で!」


父は悔しそうに言った。


俊彦は、腕を伸ばして私の分の切符を機械に通した。

そして、父の目の前で私を抱き寄せる。


「また来ますよ、二人で」

「ま、またね、父さん」


そして、私達は新幹線に乗り込んだ。

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