《MUMEI》




ふと裕斗の事を思い出し次は俺が病室を出た。



丁度病院の入り口を出たところで、裕斗から電話が掛かってきた。





『――惇が倒れた…』



『――――惇が?』




『救急車で運ばれたんだ…、あの、お前からメールがあった後すぐに…、突然急に過呼吸のスイッチが入ってさ、




心臓発作まで起こしたんだ…』





裕斗は冷静に俺の話を聞き、何度か頷いていた。




とりあえず惇の兄貴の事もあるし、惇の身内には秘密にすることと、惇の兄貴が東京にいる事も、簡単にではあるが説明しておいた。




『な、ちょっと人の携帯だから開きたくねーからさ、聞いていいか?、


惇と…メールでどんなやり取りしてたんだ?』




『―――――』




『――まあ、いいや、とりあえず何かあったら俺から電話すっからさ…、なるたけ早く来てくれよ、頼む』



『―――分かった』






病室に戻る途中、平山さんが公衆電話で電話しているのを見かけた。



俺は売店で缶コーヒーを買い、久しぶりの水分を補給した。




そういえば惇は始めから専属のマネージャーがついていた。



それが平山さんだったりする訳だが…。



俺なんか駆け出し時代は自力で仕事場に通ったし、マネージャーも居るんだかいないんだかみたいな状態で…、




ちゃんと専属が着いたのは暫くしてからだった。





だから惇は余程かわれていたのかと思っていたが、どうやら色々とあったからなのだと理解した。






――俺は何も惇の事知らなかった…




何も知らないんだと思うと悔しくて堪らない。






今まで何も重要な事話て貰えなかった…、



いや、そこまで安心させて何でも話せる関係にしてあげられなかった自分自身にも情けなくて悔しいったらない。








『ゴメンな…ずっと…辛かったんだな』



見慣れた寝顔に向かい、




俺は謝る台詞しか出てこなかった。

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