《MUMEI》

俊彦が用意しておいたのは、自由席の切符だったが、車内は空いていて、座る事ができた。


「俊彦、お金…」


「いいよ、別に」


「でも…」


「それより、本当に大丈夫だったんだよね?」


真剣な顔で俊彦は訊いてきた。


私が頷いても、俊彦はまだ少し疑っているようだった。


(どうしたら、信じてもらえるかな…)


私は車内でそればかり考えていた。


新幹線を降りた後、私達は駅前で軽く夕食を済ませた。


「本当に、大丈夫だからね。明日から、普通に仕事できるし」


私がそう言っても、俊彦は無言だった。


(もしかして、…怒ってる?)


私は不安になった。


その後の電車内でも俊彦は無言だった。


不安になった私は、俊彦の手を握った。


振り払われはしなかったが、いつものように喜んでくれなかったのが少し寂しかった。


「遅いけど、ちょっと寄っていかない?」


「うん。いいよ」


そして、私は俊彦に誘われるまま、いつものように、俊彦の部屋に入った。


「蝶子はいつも言葉が足りないし、結構無防備だし…
俺、はげるかも」


「…ごめんなさい」


私が謝ると、俊彦はため息をついた。

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