《MUMEI》 ◆◇◆ 妖しげな風が、夜桜の長い髪を揺らした。 妖気は次第に強くなる。 この先は大内裏だ。 帝に若しもの事があってはならない。 彼女の傍らでは、狐叉が眼を光らせている。 「‥彩貴」 狐叉の声に、その若人が立ち止まる。 「どうした」 振り返り、そう尋ねた刹那。 びゅうっ。 「‥!」 疾風の如く、何かが彼の脇を擦り抜けた。 「な‥」 鎌鼬だ。 それは止まる事なく向こうの闇に吸い込まれ、消えた。 「気をつけろ。注意を欠かすな」 「お前如きに言われたくは無い」 彩貴は冷たい眼差しを狐叉に向けた。 「──────‥」 すると彼女は、参った、というように息をつき、再び歩き出す。 ◆◇◆ 前へ |次へ |
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