《MUMEI》
第十七話:発端
「全部って・・・・いったい何をやらかす気だい、快ちゃん」

 かくれんぼに鬼ごっこ、さらにちゃんばらを一遍にやる。それではまるで・・・・

「バスターの演習だね、快ちゃん」
「そういうことだ」

 これだけで白真と修には理解できたようだ。
 氷堂もそう言われると理解できた。

「どういうこと? 快ちゃん?」

 首をかしげて翡翠が尋ねる。

「だからな、せっかく氷堂さんみたいな幹部が遊んでくれるんだから、
 この気に乗じてバスターの演習をやるってことだよ。
 かくれんぼも鬼ごっこも、もとは敵のアジトに侵入するためにあるだろ?
 ちゃんばらだって戦うときに必要だ。
 だから、今回は翡翠が人質になって、俺達が翡翠を助け出すミッションだ。理解できたか?」

 大まかに全員が理解できた。しかし、

「えええ!! 翡翠捕まっちゃうの!? 翡翠も戦う方がいい!」
「おいおい、翡翠は『治療系』のバスターだろ。戦いよりもサポート役だろ」
「いやだ! 翡翠だって戦うの!」

 一度こうだといったら翡翠はなかなか言うことを聞かない。
 しかし、長年の付き合いと精神年齢の高さとは恐ろしいものだ。快は一言で片付けた。

「分かった。だったらお前に重要な任務をやる。
 氷堂さんから逃げ出せ。それがお前の任務だ。
 幹部級から逃げ出すなんて普通はできないぜ?」
「人質やる!」

 氷堂は驚くだけ驚いた。
 「TEAM」を継ぐこの少年隊長は、もはやプロもいいところだ。
 仲間をこれだけうまく手なずけるものなど大人でも少ない。
 翡翠が単純といえば単純なんだが・・・・

「そういうことだ。氷堂さん、本気で頼むぜ?」

 快はバスターの目をして氷堂に宣戦布告すると、

「ああ、じゃあ、人質はいただいた!」

 瞬身でその場から消えたのだった。


 そして・・・・

「さて、この辺でいいかな、翡翠ちゃん?」

 人質に場所を尋ねるのもやはり翡翠に対する甘さゆえ。
 高い木の下に少し緩く縛ってやると、

「うん! だけど、私もミンション開始だもんね」
「いや、ミッションね。
 それじゃ、俺は快ちゃん達を捕まえに行ってくるから、少し大人しくしておいてくれよ」

 これほど優しい悪人も滅多にいないだろう。
 氷堂は瞬身でその場から消えた。

「よ〜し! がんばっちゃうもんね!」

 翡翠は一気に集中した。
 腹部に巻かれた縄に自分の力を流し、一気に引き千切る。
 その芸当をやってのければすぐに快達と合流できるのだが、

「あれ? 氷堂さん何か特殊な術でもかけたのかな?」

 何度かこの練習をしたことがあるが、今回は簡単に切れない。
 それどころか、いつも以上に嫌なプレッシャーが翡翠を襲い始める。

「えっ? なにこれ!」

 さっきまで緩かった縄が少しずつきつくなり始める。
 いくら氷堂でもここまで高度な術をかけるはずがない。
 あくまでも子供の遊びだ。

「快ちゃん! みんなぁ!」

 翡翠は涙目になり始めた。
 そして、彼女の前に一つの影が現れる。

 それが事件の始まりだった・・・・

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