《MUMEI》

何も得られないまま、辺りは薄暗くなってしまった。



「―…あ」



おれは、はっと気付いて本から顔を上げた。



「空手!!」



もう、とっくに空手の練習が始まっている時間だった。



「え??」



声の方を見ると、『おれ』の不思議そうな顔。



―…そうだった。



おれはいま、『おれ』じゃないんだ。


…つい、習慣が出てしまった。



ふと思いついて、蓬田に言ってみた。



「―…な、ちょっと立ってみ」


「…へ??」


「いーから、早く」



訝しげな表情をしながらも、素直に従う蓬田。



「そのまま前屈」



おれが命じると、



「前屈!?なんで?」



蓬田はますます訝しげな表情になる。



「いーから、ほら」



促すと、



「…こう??」



蓬田は上体を前に倒した。



「ギリギリまで曲げてみろ」


「…これ、ギリギリだよ!」



…あ―…



やっぱ、身体ちょっと硬くなってんな…



「なに??どーしたの!?」



元に戻った蓬田が、疑問をぶつけてくる。



…少しくらい、いいよな。



「―…蓬田、」



おれは、切り出した。



「…おれに、協力してくんねーか?」

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