《MUMEI》
第二十話:罠
 暗い暗い場所だった。
 倉庫の中は天窓から少しだけ光が差し込んでいて、
 ダンボールの匂いが立ち込めている。
 鉄の柱に縄で縛られているが、目隠しはされていない。
 翡翠は少しだけ涙を浮かべていた・・・・


「ここか・・・・」

 自分の家から出るのは簡単だった。
 誰にも気づかれずに出られる術を快は知っていたからだ。

「やっぱり赤外線が張り巡らされているな。翔、いけるか?」

 快は翔に尋ねると、

「ああ、大丈夫だ。んじゃ、いくか!」

 翔の髪が少しだけふわりと揺れると、猛烈な強風が辺りに吹き荒れだした。

「召喚! 切裂!」

 叫んだと同時に死神が出現し、赤外線をすべて切裂いていく!
 翔が得意とする召喚の一つだった。
 そしてさらに叫ぶ。

「出て来い! 風木霊!」

 次に飛び出したのは小さな白い鼠のような生き物。
 ルビーの目が輝き、竜巻を所々に起こし始めた。

「火事だ! 早く消せ!」
「電信柱が倒れたぞ! 電気の復旧を急げ!」
「侵入者はどこだ! 早く殺せ!」

 ブラッド内は一気に騒がしくなった。

「殺せとは穏やかじゃねぇな。
 だが、やられる前にこっちがやる!」

 快と白真はブラッドの敷地内に姿を現した。それを見た血気盛んな者達は、

「あのガキどもか! 撃て! 殺せ!」

 怒声とともに、無数の銃弾が快達に撃ちこまれたが、

「効かないよ、おじさんたち」
「なっ! 鉄を召喚しただと!」

 快が召喚した鉄壁は銃弾をすべて吸い込んでいた。

「今撃ったもの、すべて返してやる」

 その言葉を合図に、二人に向けられたものはすべて返された。

 その頃・・・・

「こっちで間違いないのか?」
「ああ、翡翠も人質役様になってきたもんだ。
 プラーナ(気)を発しているようだしな」

 普段の遊びはこんなところで生かされてきた。
 だが、そのおかげで紫織は翡翠がさらわれる現場を偶然目撃し、怪我をする羽目になったのだ・・・・

「とにかく、翡翠を助けたら早く帰ったほうがいい。
 瞬間移動なんて芸当は俺と快しか出来ないんだからよ」

 修は少しだけ焦りを感じながらいった。
 二手に分かれればそれだけ戦力は落ちるが、
 敵の分散と脱出にはもってこいだ。
 これが二手に分かれた理由だった。
 あくまでも死んでしまっては意味がない。
 快は敵地に乗り込んでも、そこだけは冷静だった。

「だけど、快はこっちに合流してきそうだ。
 外がやけに静かになったと思わないか?」
「静かに・・・・?」

 修は最悪のパターンに陥ったことにようやく気づいた。

「翔! 飛ばせ! 敵は俺達の方に集中してる!」
「その通り」

 ブラッドの幹部達は、二人を取り囲んでいた。

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