《MUMEI》
第二十二話:津波
「がはっ!」
「翔!」

 ブラッドの幹部数十人に囲まれていた修と翔は、
 自分達の力全てを使い切っていた。
 修の時空魔法で逃げ切りたかったが、
 それをさせない速さが目前の敵の特技らしい。

「おいおい、もうくたばったのか? TEAMのガキだったらもう少し位楽しませてくれよ」

 首根っこを筋肉質の男に持ち上げられたが、
 翔は反抗した目を決して崩さなかった。
 それを見て、卑下された笑いが二人の空間に立ち込める。

「手を出してはいけない」。そんなことは分かっていた。
 子供ながらにも「ブラッド」の名は脅威の存在だと知っていたから。
 だがそんなことより、翡翠が無事なことだけを願っていた。
 だからこそ、最後まで反抗したかったのである。
 命乞いをして死ぬことだけはしたくなかった。

「可愛そうなことしてやるなよ。 一思いに殺してやりな」
「殺し屋の癖して母性本能でも働いてるのか?」

 さらにこの空間は笑いに包まれる。

「やるならやれよ。こっちはプロのバスターとしての誇りがあるんだ。
 てめぇらみたいなカスに情けなんか掛けられても嬉かねぇんだよ!」

 血の混ざった唾を翔は男の顔に吐く。
 その態度に周りは笑い出すが、首根っこをつかんでいた男は激怒した!

「クソガキが!」

 手に鋭い刃が召喚される。
 水を滴らせているあたり、この男は「水」を扱う剣士なんだと理解できた。

「そんなに死にたければ今すぐ楽にしてやる!」
「やらせるか!」

 修が男に体当たりした!
 そしてその体勢が崩れたところで翔も男の顔に蹴りを一発入れる!

「すまない、修」
「礼は後だ。とにかく、ここから逃げることを考えろ。
 援軍なんて絶対来ないんだからよ!」
「そのようだな」

 男は立ち上がる。そして、二人は最悪の光景を見た。
 男が召喚した剣に、水がまるで生き物かのようにうごめいてる。

「俺も遊びには疲れた。後二人侵入者もいたようだしな。
 そいつらに期待するとしよう・・・・」

 そして切っ先をスッと二人に向ける。

「終わりだ」
「うわあああ!!!」

 二人は真正面からその攻撃を受けた!
 流れ出る大量の血が彼らの死を物語っていた・・・・・
 だが、本当の悪夢はここから始まったのだ。

「幻術はこの程度でいいか?」
「なっ!」

 そこには水でずぶ濡れになった二人を抱えている男がいた。

「うちの息子達が随分と世話になったな、猿柿さんよ」

 二人を殺したはずだった男は自分の名前を呼ばれ青ざめる。
 それは周りにいた幹部達もだ。

「と・・・・と・・・・時枝脩三!!」
「何だって!」

 そこにいたのは、黒ずくめの格好をした時枝警視総監こと、時枝脩三が立っていた。

「水が好きなようだな」

 にやりと笑ったその顔は、とても温厚な父親だとは思えない。

「命だけは・・・・!!」
「そうだな。だが・・・・」

 大量の水がこの空間に召喚される。
 そして、それは津波のようなうねりを上げて幹部達に襲い掛かった!

「この空間から消えろ・・・・・!」

 跡形もなく、そこにいたものは波にのまれた・・・・

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