《MUMEI》







『このまま一泊するかどうかは惇次第で良いって、どうする?』



『あの、帰ります…、なんかかえって落ち着かないし…』




惇がそう言うと平山さんはナースステーションに行って話てくると病室を出た。



惇もすっかり元に戻った様子でベッドに座りながら平山さんが売店で買ってきてやったパンにかじりつきだした。





『こんな変なパンしか残ってなかったんじゃなあ、――やっぱ俺コンビニ行って来ようか?』



『良いって、折角平さんが買ってくれたんだもん、つかクリームパンなんて中学生以来だな〜、たまに食べると美味いかも…』




ほらって差し出されて一口かじる。




『――クリームパンだね』




『ハハッ!クリームパンだ』




すっかり笑顔の惇。




しかし確りと繋がれた手の平は体が緊張しているのか、うっすらと汗をかいている。




さっき平山さんが病室に入ってきた時も、とても俺から離れられない様子で、ずっと繋ぎっぱなしだった手。





平山さんは見て見ぬ振りをしながら、惇の元気そうな姿にほっとした様子だった。




さっきは事務所に電話していたらしく、惇のスケジュールの変更をしてくれていたのだ。





とりあえず惇はこれから最低一週間のオフ。




ついでに俺の分も3日間調整してくれた。




出来れば俺も休んで傍にいたかったから平山さんの機転にはひたすら感謝。





これで最低3日間は傍にいてやれる。




惇は、兄貴には直接会う事もなく済みそうな事実にほっとし、すっかり気が抜けたみたいだ。





『――俺別に兄貴の事キライじゃないんだよ?つかさ…違うんだよ…、俺が一方的に嫌われてんの……』




『―――そう…なんだ』




『――ちゃんと…隆志には話さなきゃね…
聞いてくれる?』







俺の手をきつく握りしめたまま、ゆっくりと惇は語りだす。




途中、何度か言葉に詰まる度背中を摩ってやった。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫